『学問に王道なし』¹ 日本語の「王道」とは、もともと儒教で説く徳をもとにして国を治める理想的な政治のあり方のことであった。しかし、このことわざにおけるように「安易なやり方」、「楽な方法」、あるいは「近道」という意味で国語辞典に載ったのは、私が調べた範囲ではごく最近のことのようである。 王道は英語のロイヤル・ロードの直訳であるが、新しい意味はこのことわざから定着したものと思われる。英語圏でも、このことわざが確立したのは比較的新しく、19世紀前期のことである。 これは紀元前300年ごろ、ギリシャの数学者ユークリッドがエジプト王トレミー一世に幾何学を教えていた時、「幾何学を学ぶ近道はないのか」と聞かれたとき、「幾何学には王道なし」と答えたことに由来する。後に幾何学が学問に取って代わられたものである。 学問には、身分の上下なく、誰が志しても等しく経験しなければならない努力という過程があり、一切を意のままに出来る王といえども直ちに習得できる特別な道はないということである。 1. There is no royal road to learning. (志子田光雄) |