『簡潔は機知の精髄』¹

 シェイクスピアの悲劇『ハムレット』で、重臣ポローニアスは王と王妃に対し、王子ハムレットの狂気の原因を探り当てたと報告するが、その際もったいぶって中々切り出さず、簡潔どころか長々と前置きを述べる中で使う言葉である(2幕2場90行)。

 『ハムレット』が上演された16世紀にすでにことわざとして成立していたが、この芝居で一躍有名になった。原文の中のwit’は本来「知恵」「知性」の意味であるが、ことわざでは「機知」の意味に解するのが普通のようである。

 結婚披露宴の祝辞の長いのはいかにもはた迷惑であるが、短く済ませようとして「スカートとスピーチは短いほど良いと申しますので」と前置きするよりは、「簡潔は機知の精髄と申しますので」と始めるほうがどれほど知性にあふれ、スマートであることか。ただし、これは上述のように王子ハムレットの言葉ではなく、王子ハムレットの行動をスパイし、最後には王子に殺されてしまう、老獪で人を信用しない政治家ポローニアスの言葉である。念のため。

 『言は簡を尊ぶ』に相当し、その反対は『下手の長談義』であろう。

1. Brevity is the soul of wit.

(志子田光雄)