『どんな雲にも銀色の裏地がついている』¹

 言語による表現には、「空は青い」のような字義通りの描出的表現と、「彼女は赤いバラのようだ」のように何かを何かにたとえる比喩的表現がある。このことわざは比喩的表現であり、しかも二重の比喩的構造からなっている。

 まず雲は、銀色の裏地をつけた衣服にたとえられている。どのような雲でも地上と反対側、すなわち空に面している側は太陽の光を浴びて白く輝いているので、銀色の裏地があるとしたのである。この雲はばら色に染まる雲でも、羊毛のように純白で軽やかに飛ぶ雲でもない。地上から見ればどんよりとした黒い雲でなければならない。そこで初めて裏地の銀色と対照をなすからである。

 そして、この銀色の裏地のついている暗雲は、人生において直面する不幸や災難の比喩となっている。いかにその状況が悪く、暗澹たるものであっても、その背後には必ず明るい良い局面が約束されているというのである。

 幸不幸は背中合わせ、何事にも失望は禁物ということである。

1. Every cloud has a silver lining.

(志子田光雄)