『弱きものよ、汝の名は女なり』

 シェイクスピアの悲劇『ハムレット』において、夫の死後二ヶ月足らずで夫の弟と再婚してしまった王妃ガートルードに対する息子ハムレット王子の非難と嘆きのセリフが出典(1幕2場146行)。

当時は、「男は父母を離れて女と結ばれ、二人は一体となる」(創世記第2章24節)という聖書の記事がそのまま信じられ、生理的にも男女は結婚すれば血が混じりあい、同一になると信じられていた。したがって、夫婦のどちらかがその配偶者の兄弟姉妹のいずれかと結婚すれば近親相姦となり、これは教会法によって固く禁じられていたことである。統計的に、近親結婚が不都合を生み出すことは、当然知られていたからである。それをあえて犯した行為は、単に個人的な罪であるだけではなく、社会に対する挑戦にも相当することであった。ハムレットの苦悩と悲劇の原因はこの点にもある。このような社会的タブーを犯してまでも情欲に負け、貞操を捨てて他の男に走った母親に対する王子の嘆きの言葉である。 

 『女心と冬の風はしばしば変わる』とか、『女の誓いはウエハースのようなもの、作るそばから壊れる』、そしてきわめつけはフランス語のことわざ『女は常に女だ』3など、女心の変わりやすさと浮気心を鋭く突いた(多分に男性中心社会において作られた)ことわざは多いが、標記の表現は美しくも痛烈な名言である。

1.
 Frailty, thy name is woman.
2.
 A woman’s mind and winter wind change oft.
3.
 A woman’s oaths are wafers, break with making.
4.
 La femme est toujours femme.


(志子田光雄)