『何の匂いもしないのが女性の最高の匂い』¹

 身体や衣服に付香する習慣は、最初宗教的な儀式において清浄感を出すためのものであったが、やがてエジプト、ギリシャ、ローマでは化粧に用いられるようになった。中世にはすでにアルコール香水の元祖が生まれ、イギリスのエリザベス一世時代(16世紀)になると男女ともに香水を愛用したという。

当時ヨーロッパはおしなべて不衛生で、例えばトイレは一般にあまり無く、チェンバー・ポット(おまる)に用を足し、翌朝家の前のドブに捨てるという有様であったので、家の内外ともに悪臭が漂っていた。人々は、ポマンダーと呼ばれる金属製の匂い玉や匂い袋を鼻に当てて、悪臭のひどいところを通過したといわれている。

 フランスのルイ王朝では、貴族の夫人たちが自分に合う香水を作り出したが、当時の人々はあまり風呂に入らなかったので、体臭を消すためであった。

 標記のことわざは、ラテン語の「女性は少しも匂わない時に一番正しく匂う」²に由来するが、香まみれでない女性の清潔感を称えたものである。

1.  The woman that smells of nothing smells best.
  Var. She smells best that smells of nothing.
2.  Mulier recte olet ubi nihil olet.

(志子田光雄)