『不在者はいつも悪者』¹

 他の表現では『居ない者は必ず落ち度があり、出席者の弁解は必ず通る』²とある。

 何か問題があった場合、不在者のせいにしてしまえばその場は丸くおさまり、たとえ居合わせた者に責任があっても弁解、釈明が通り、その人の面子は保たれることになる。いわば不在者を「スケープゴート(身代わり山羊)」(注)に仕立てるのである。

 日本のことわざ『居ない者貧乏』、すなわち、利益にかかわる相談の場で、居合わせた者だけが自分たちに都合のよいように取り決め、その結果居ない者は取り分で損をすることになる、というのも同趣。

 (注)昔ユダヤ民族は、民族の贖罪のための儀式で二頭の山羊を選び、抽選で一頭を殺して神に捧げ、他の一頭には祭司が両手を当てて民族の罪を象徴的に負わせた後、荒野の悪霊アザゼルのもとに放した(旧約聖書レビ記16章7―10節参照)。本来はこの「アザゼルのための山羊」というヘブル語が、ティンダル訳の英聖書(1530)で誤訳されて「スケープゴート」(逃れ山羊)となったものと言われている。

1.  The absent are always in the wrong.
 Var. The absent party is still faulty.
  Les absents ont (toujours) tort.
2.  The absent are never without fault, nor the present without excuse.

(志子田光雄)