『金持ちの馬鹿は金持ち、貧乏な馬鹿は馬鹿』¹

 日本のことわざに『金があれば馬鹿も旦那』とあるように、金銭財産さえあれば、世の中の人々は少々馬鹿な者でも尊敬し、「旦那、旦那」と持ち上げる。金の威光で世間の人の目はくらみ、その人の馬鹿さ加減は陰に隠れて見えなくなってしまうのだ。

 ところが、貧乏な馬鹿は、馬鹿を覆い隠してくれるものが無いばかりか、馬鹿ゆえに貧乏であると判断され、結局は馬鹿が何倍にも増幅されて目立ってくると言うのである。 

 ところで、人は常に他との相対的な関係を意識しつつ社会における自分の位置付けをしながら生きている動物であると言えよう。貧富、賢愚、強弱、上下、幸不幸などなど、一人一人の座標付けは千差万別である。このことわざに関しても、読む人が、自分をどの座標に位置付けるかによって、金持ちの馬鹿と貧乏な馬鹿の両者に対し、妬み、羨望、非難、軽蔑、憐憫、首肯、嘲笑等、様々な心的反応が生じてくるであろうが、読者諸氏の場合は如何。

1. Un idiot riche est un riche.
  Un idiot pauvre est un idiot.

(志子田光雄)