『どこの家にも戸棚の中に骸骨あり』¹ このおどろおどろしいことわざは、19世紀のイギリスの作家サッカレーの言葉「すべての家庭には骸骨がある」が類例の初出として記録されているが、19世紀中葉には標記の表現でことわざとして確立していたようである。 人を殺し、死体を天井、押し入れ、床下に隠しておき、発見された時には白骨化していたという事件の報道は、時折耳にするところである。「戸棚の中の骸骨」というショッキングなイメージで、「隠しおおせたい秘密」を表し、ことわざ全体では、「どこの家庭にも外聞を憚(はばか)る内緒ごとや秘密はあるものだ」ということを意味する。 イギリスの20世紀の文豪、サマセット・モームの小説に『お菓子とビール』(Cakes and Ale) がある。文壇のある大御所の伝記を依頼されて調査中、個人の先妻の男遍歴が分かってしまい、その女性を巡る文壇内部の暴露と風刺を題材とした小説であるが、その副題にこのことわざがそのまま用いられている。 (志子田光雄) |