『乳母のために子供にキスする者が多い』¹
乳母があやしている子供を見て「可愛い」などと言いながら子供にキスする者は、乳母の心を得るためであって、子供はその手段に用いられたに過ぎないという意味。
乳母には、ドライ・ナース(乾いた乳母)とウエット・ナース(湿った乳母)の二種類がある。前者は子供に乳を飲ませないで子供の世話をするだけの乳母、後者は自分の乳で子供を育てる乳母であり、したがって出産経験者である(余談であるが、古くは乳母の乳を通して乳母の性質が子供に移ると信じられていたため、乳母の選定には気を使う必要があった)。
標記のことわざの乳母は、前者でしかも若い娘であろうと想像していたが、デンマークの『子供の手を取る者は、その母親の心を取っている』や、イギリスの『子供の鼻を拭いてやる者は、その母親の頬に接吻しているのだ』²など、男心を述べたことわざがあるのをみると、必ずしもこのことわざの乳母は若い娘でなくてもよさそうである。「うばざくら(姥桜)」の「うば(乳母)」でも可能性がある。
本邦の『将を射んとせば馬を射よ』に相当する。
1. Many kiss (or love) the child for the nurse’s sake.
[出典]
(L.) Osculor hunc ore natum (or puerum) nutricis amore.
(乳母への愛のゆえに男の子(子供)に口づけする。)
(G.) Um das kindes willen küßt
man die Amme.
(Scot.) Many one kisses the bairn (=child)
for love of the nurrish (=nurse).
(Var.) Love the child for the nurse’s sake.
For the mother’s sake, kiss the son.
Man küßt das Kind oft um der Mutter
willen.
(母親のために子供のキスすることがよくある。)
2. He that wipes the child’s nose kisses the
mother’s cheek.
(G.) Wer dem Kinde die Nase wischt (putzt), küßt
der Mutter die Backe.
(志子田光雄)
|