『金なければスイス人も去る』¹

 シェイクスピアの『ハムレット』の中で、暴徒が宮廷に乱入した時、デンマーク王クローディアスは「私のスイス人はどこだ」と叫ぶ。スイス人とは護衛兵のことである。あのミケランジェロがデザインした派手な制服に身を包んで立っているカトリックの総本山ヴァチカン宮殿の衛兵も、伝統的にスイス人である。

 歴史上、スイスは外国からの侵略に対して勇敢に戦った。そのため各国は競ってスイス人を傭兵としたが、ことに15世紀以降、人口増加のためにスイス各州は積極的に傭兵を外国に送り出したようである。

 15世紀末のイタリア戦争の時には、スイスの東部諸州はミラノ側に、西部諸州はフランス側に傭兵を提供したため、スイス人同士の戦争の観を呈した。この戦争の際、フランスのフランソワ一世の将軍ロートレックがスイス傭兵に給料を支払わなかったので、傭兵は皆スイスに引き上げてしまい、そのためフランソワはミラノを失ってしまった。このことわざは、この事実に基づいていると言われている。

 「金が貰える間だけの傭兵」との意味で、万時金次第、本邦のことわざ「金の切れ目は縁の切れ目」に相当する。

1. No money no Swiss.
  No pay, no Swiss.
  Point d’argent, point de Suisse. (金が無ければスイス人は雇えない。)
() No money no man.

(志子田光雄)