『わずかの学問は危険なもの』

 少しばかり知識があると、それに頼り、自分の無知に気づかずに誤りを犯す。そして、その学識を鼻にかけ、他人の顰蹙(ひんしゅく)を買うこともある。

 出典はイギリス18世紀の詩人アレグザンダー・ポープの詩『批評論』の次の一節。

 「わずかの学問は危険なもの。
   深々と飲め、さなくばピエリアの泉は味わえぬ。
   浅い飲みは頭を酔わせるのみにて、
   大いに飲めば再び酔いを醒ますものなり。」º

 ピエリアの泉とは、ギリシャ神話でオリンパス山の麓にある「詩の泉」。この泉の水は、詩想、学問の力を刺激するといわれた。その水の中途半端な飲み方は、かえって頭を狂わせるので、十分に飲めというのである。

 しかし「過度の学問は人を狂人する」¹こともあり、さらに「悪人の胸の中の学識は狂人の手の中の剣のようなもの」²、「学問は善人を一層善人たらしめ、悪人を一層悪人たらしめる」³ということもある。まことに、学問の修め方によっては、「学のある頓馬(とんま)は無学の頓馬よりも大きい頓馬」と言われかねない。

0.  A little learning is a dangerous thing;
  Drink deep, or taste not the Pierian spring,
  There shallow draughts intoxicate the brain,
  And drinking largely sobers us again.
1.  Too much learning makes men mad.
2.   Learning in the breast of a bad man is as a sword in the hand of a madman.
3.   Learning makes a good man better and an ill man worse.

(志子田光雄)