『切り落としたい手にキスする者が多い』¹ 胡麻を擂(す)るという言葉がある。人にへつらって自分の利益を企てることである。ゴマスリの語源ははっきりしないようだが、『大言海』では「擂鉢(すりばち)で胡麻を擂ると、胡麻が四方につくことから、あちこちについて、人毎にへつらう者をいう」のだそうである。しかし、一般には、一人の人にお世辞を言い、おもねる場合にも用いられており、この説はにわかにうなずけない。英語では「ポリッシング・アップル」(リンゴを磨く)と言う。その動作がもみ手に似ているからである。 人に仕えるのに胡麻を擂ったり、リンゴを磨くのは、心底に悪意が無いだけにまだ許せる。しかし標記のことわざのように相手の手を切り落としたいほどに憎んでいるのに、その手に口付けをしてへつらう者の存在には、背筋が冷たくなる思いである。 心底は悪意を秘めながら表面上は丁重な態度を取る者の存在は許せないが、そのようなへつらいを求める側にも責任があると言えるであろう。 (志子田光雄) |