『贈られた馬の口を覗くな』¹

 馬の年齢(齢の字に注意)は歯の磨耗の程度で分かる。したがって、馬の口の中を覗くとは、その馬の年齢を調べることである。好意で送られた馬の年齢を調べて、役に立つかどうかを調べるのは、その贈り主に対して大変失礼というものであろう。

 最近は物が豊富になり、贈り物をいただいても感謝の気持が薄れがちである。しかも品物によっては、容器や外箱に付してある記号によって値段まで分かる仕掛けになっているものもある。そのため、あの人はこのくらい、この人はこの内容を贈ってくれたと値踏みをしてしまう。贈る側にすれば、先方の好みを考えて悩んだ末の贈り物である。
 
 贈り物を受け取ったときには、それがいかにつまらない物であっても、よもやあら捜しなどはしないで、感謝して受け取るべきである、という戒めである。

 ラテン語のことわざ『与えられた馬の歯を調べるな』²、あるいは『もし誰かが馬車馬をくれたなら、その歯で年齢を調べるな』³などから派生し、イギリスでは16世紀に確立したことわざである。貰い物にとやかく言うなということから、本邦の『戴く物なら夏でも小袖』を当てることがあるが、趣旨にはいささか違いがある。

1.     Look not a gift (or given) horse in the mouth.
   A cheval donné on ne regarde pas la bouche. (貰った馬の口は見ない)
2.      Noli equi dentes inspicere donati.
3.      Si quis dat mannos ne quaere in dentibus annos.