『転がる石に苔むさず』¹

 ギリシャ・ローマ時代にすでに成立していたことわざである。度々転居したり商売を変える人は金がたまらない、というのが原義である。内容的には肯定的なので少々異なるが、日本のことわざ『石の上にも三年』に相当する。

 しかし、「苔がむすこと」を沈滞の意味に解釈し、忙しく身を動かしているとか、仕事を次々に変えて少しでも良い条件を求めなければ立身出世は望めない、という前者とはまったく逆の意味に解釈されることもある。この解釈は、転職による昇進・昇給を普通とするアメリカにおいてその傾向が強い。日本でも、大企業や大学の研究機関をスピン・アウト(飛び出)した者たちで作られたいわゆるベンチャー企業の興隆を見ていると、苔がつかないことのほうが良い意味を持つ傾向にあるようだ。

 原義に解釈するイギリスにおいても、このことわざの後に「しかしつながれた羊は太らない」、すなわち移動も必要であると言う内容の言葉が付加されて、意味のバランスをとる場合もある。

1. Rolling stone gathers no moss.
  Rollender (Walzender) Stein hat kein Moos (wird night moosig).

(志子田光雄)