『子供は大人の父親だ』¹ 

 出典は、イギリスロマン主義の詩人ワーズワス(William Wordsworth, 1770-1850)の詩「虹」である。

   空に虹を見るとき
   わが心は躍る。 
   人生の始まりし時然り、
   大人の今も然り、
   老いても然あらんことを、
   さもなくば死こそ望まし。
   子供は大人の父親なり。
     願わくはわが日々が 
   自然への畏敬にて培われんことを。

 一般にことわざとしては、子供時代の性質は大人になってもなくならない、あるいは子供の性格を見ればどのような大人になるか分かる、すなわち『三つ子の魂百までも』と同意義に解釈され、さらに敷衍して、幼児の悪習は大人になっても直らないと言う意味でも用いられる。しかし、このような解釈はことわざとして一人歩きした結果であり、いささか妥当性を欠く。

  原詩は、純真な子供の抱く自然への畏敬の念が、大人になっても失われることの無いようにということの表明であることを考えれば、拡大解釈してもせいぜい子供こそ人間の本源の姿であるから、大人は子供の純粋さに学ぶべきであると言う意味になるであろう。

1.   The child is father of the man.

(志子田光雄)