『ローマにいる時はローマ人がするようにせよ』¹ ラテン語のことわざ『ローマにいる時はローマ式に生活をせよ、他の場所にいる時は、そこの風習に従って生活をせよ』²に由来する。日本のことわざの『郷に入っては郷に従え』に相当する。その土地に入ったらその土地の風俗習慣に従うのが処世の法であり、社会生活を営む人間にとってきわめて重要な行動の基本である。しかし、このようないわば迎合的な生き方だけから、はたして積極的な行動が生まれるかどうかも疑問である。かつて、アメリカの進歩的な学者が、「ローマにいる時はローマ人がするようなことはするな」と講演したのを聞いたことがある。彼は、これをもって大勢順応主義と体制順応主義を批判したのである。確かに、この否定による表現は一見進歩的であるが、もしそこに否定した事柄にとって代わる確かな行動の原理がなければ、消極的な姿勢に終始することになる。非凡なる人には可能であっても、凡人には難事であろう。 私はむしろ、「ローマにいる時はローマ人の為さぬことをせよ」という姿勢に魅力を感じる。もちろん「郷に従いつつ」「郷の人がしないこと」をもすることにより、新しい何かが創造され、進歩が起こり、同時にその行為者の存在と価値が明らかにされるからである。 |