『善行を肌とシャツの間に隠せ』¹

 『善をなすのに思案するな』²ということわざがある。くだらぬ思案をしているうちに善を行う意思をなくしたり、あるいはチャンスを失うから、というのである。

 しかし、たとえ善をなすのに躊躇って遅れてしまっても、『善をなすに遅過ぎることはない』³と行動を促してくれる親切なことわざもある。

 善は古来、真、美と共に、人間の行動の最高の目標とされてきたが、このように行動に移すことは大変難しいもののようである。行動に移したとしても、標記のことわざのように、善は密かに行い、人に洩らすな、と言われる。フランス語で「肌とシャツの間」とは「厳重に」という意味を持つが、善行は厳重に隠蔽されなければならない。

 善行の具体的な例としての「施し」に就いて、聖書は「あなたは施しをするときには、偽善者たちが人からほめられようと会堂や街角でするように、自分の前でラッパを吹き鳴らしてはならない。施しをするときには、右の手のすることを左の手に知らせてはならない。あなたの施しを人目につかせないためである。」(マタイによる福音書第6章2―4節)と述べている。

1. Entre la chair et la chemise il faut cacher le bien qu'on fait.
2. Il ne faut pas délibérer pour faire le bien.
3. Il n'est jamais trop tard pour bien faire.

(志子田光雄)