『禁断の木の実は甘し』¹

 「禁断の木の実」は、一般にリンゴであると言われている。神話によれば、神の側近であった天使ルシファーが神に盾突いて戦いを起こし、天の軍勢に散々打ち破られて地獄に落とされて悪魔になった。悪魔は神に復讐するため、神によって愛されていた人類が住むエデンの園に侵入し、蛇に化身してまずイヴを誘惑し、禁断の木の実を食べさせることに成功する。イヴはその美味なることに驚き、愛する夫アダムにも勧めるが、アダムは妻が神の禁を破ったことに驚きつつも、神の罰を受けるならば愛する妻と共に、と覚悟を決めてリンゴを齧る。その時天使の降臨があり、慌てて飲み込もうとしたが、喉につかえてしまった。それ以来男性の喉に、いわゆる「のどぼとけ」ができた。それを「アダムのリンゴ」と呼ぶ。イヴはすでに二つ食べ、それが胸についているのだという。リンゴには乳房の意味がある。これはもちろん聖書の記述ではなく、神話に過ぎない。

 このように、人類はその祖以来、禁じられたものを欲望するようである。『盗んだ水は甘く、隠れて食べるパンはうまいものだ』旧約聖書箴言第9章7節とあるが、標記のことわざも、盗み食いはうまく、不義の楽しみは魅力に富む、ということを意味する。

1. Rien n'est bon comme le fruit défendu.
 Verbotene Früchte schmecken süß.


(志子田光雄)