『少し愛して、長く愛して』¹ プラトンの『饗宴』による「愛」の誕生の次第は次の通りである。ヴィーナス誕生の祝宴において、富裕の神ポロスは神酒ネクターに酔って寝込んでしまう。そこに来合わせた貧困の女神ペニアは、自分が貧乏であることを思うにつけてもポロスのような富裕な子をもうけたいと思い、同衾し、身ごもり、子供を産む。それがエロス(愛)である。 この神話が象徴的に物語っているように、愛の真相は自己の欠乏を補おうとする欲求である。したがって、自分の貧困を満たそうとする二人の者が相惹きあって恋愛となり、夫婦の愛となる。 この欠乏性、貧困性を充足しようとする衝動は貪る形をとることが多い。その貪りが激しく、かつ満足が急激であればあるほど、飽きも急激にやってくる。 男女の、特に夫婦の愛においては、その本質である欠乏性の充足を少しずつ制御しながら行ってゆくのが、長い人生をおくる秘訣であることをこのことわざは教えている。イギリス十六世紀中葉のことわざである。 1. Love me little (and) love me long. (志子田光雄) |