『一人の床屋がどんなに剃っても、他の床屋は剃る余地を見出す』¹

 床屋(理容店)の看板である赤、青、白の組み合わせは、それぞれ動脈、静脈と包帯を象徴する。その理由は、むかし床屋は外科医を兼ねており、骨折、脱臼、創傷などの治療、さらに静脈を刺して悪血を流し去る放血術、さらに抜歯まで行っていたからである。少なくともイギリスでは1745年まで理髪とこの種の外科医は分離していなかった。

 現在用いられている看板の赤青白のねじれた組み合わせは、1540年パリの理髪外科医メヤーナキールの考案になると伝えられている。

 しかし、床屋を表す英語barberの語源がラテン語のbarba=髭(ひげ)にあることから分かるように、床屋の本務は、本来ひげを剃ったり、整えたりすることにあったと言えよう。その床屋が、ひげを剃るときには一本一本丁寧に剃り上げるが、それでも他の床屋(最近は少なくなったが、弟子の仕上げをする親方など)に見せると、さらに手を加える余地は見つかるものだ、という意味である。

 本邦の『鬼の目にも見残し』、すなわち鬼の鋭い目で見るように緻密な観察をしても、見落とすことはあるものだ、という意味に近い。

1. One barber shaves not (or No barber shaves) close but another finds work.

(志子田光雄)