『仲間のロバに啼(な)き返すのはロバである』¹ 象徴の世界では、ロバは驚くほど多様な意味を担わせられている。ヘレニズムの世界にもヘブライズムの世界にもロバ崇拝があり、救いを表す動物とされたり、節度、知恵、予言の力を持つものとされている。 一方、まったく反対に、情欲、愚か、野生、高慢、無知をも表す。英独仏語のそれぞれass, ane, Esel は「ロバ」と同時に「ばか」を意味するが、ことわざの世界では、一般にこの意味を担って登場する方が多い。 標記のことわざも、「ロバ」の代わりに「ばか」と置き換えて読めばよい。すなわち本邦の「アホウに取り合うばか」と同趣である。さらに「ロバと争う者はロバになる!」とあるように、ばかを相手にけんかする者はばかになるので、「ロバ(ばか)と論争するよりは無言でいたほうがよい」²ということになる。 愚かなロバは、他のロバにいななき返すだけでなく、「ロバは自分の声を聞きたがる」³ということわざもある。ロバの啼き声はひどいが、人間にも、自分の嫌な声を省みず、自分の声を聞いて自己陶酔に陥り、よくしゃべり、歌う者が多い。 |