『黄金時代が現代であったためしはない』¹

 「黄金時代」は、ギリシャ神話における四つの時代区分のうち最古の時代。天地創造に続いて人類が地上に住み始めたころで、真善美を兼ね備えた常春の世界には産物があふれ、労働はなく、人類は無垢で、苦悩、不正、悪のない至福の時代であった。(ちなみに、次の「白銀時代」には人類が神々の神聖を汚したためゼウスに罰せられ、「青銅時代」には人間同士が殺し合ういわば末世の様相を呈し、最後の「黒鉄時代」には悪がはびこり、神々は地上を去ったとなっている。)

 ここから、国家や文学が最も隆盛を極めた時代を黄金時代と一般に呼ぶが、人は常に現在の幸福を認めずに不満を抱き、最も良き時代を過去あるいは未来に求めようとする、というのがこのことわざの意味。過去はあらゆる苦しみが忘れ去られ、懐かしさによって美化され、未来は未知なるがゆえに希望を抱かせるからである。

 もっとも、現在に満足しない態度は、単に懐旧でなく、未来に望みを託しての現在からの脱出であれば、そこに進歩が生まれるのではあるが。

1. The golden age never was the present age.

(志子田光雄)