『4月の雨は5月の花を咲かせる』¹ 

『4月は3月から3日借りる、その日々は害をなす』²と言うことわざがあるように、4月上旬は寒い荒天の日が多く、油断がならない。しかし、月も中頃に近づくと、『4月の天気は、雨と日光が一緒に降り注ぐ』³ようになり、北国でもクロッカスや水仙が花を咲かせ、しっかりと春の陽気が定着する。

イギリス詩人の父といわれるジェフリー・チョーサー(1343-1400)は、『カンタベリー物語』の冒頭で、

   4月がそのやさしい雨を
   3月の乾燥した根まで滲み通らせ、
   すべての葉脈を樹液で潤し、 
     その力で花を開かせるとき。

と詠っている。

 これをもじって、ノーベル文学賞詩人T.S.エリオット(1888-1965)は、『荒地』の冒頭で、

   4月は残酷な月だ
   死んだ土地からライラックを芽生えさせ、
   記憶と欲望をないまぜにして、
   春の雨で鈍い根を刺激するのだ。

と詠った。4月になると無理やり植物は芽を出させられる。芽が出た土地がこの詩のタイトルのように「荒地」であれば、その植物の成長はどうなるのか。人がこの世に生れ出ても、精神的に不毛な現代に生きなければならない苦しみを、比喩的に述べたのである。

1. April showers bring May flowers.
2. April borrows three days of March and they are ill.
3. April weather, rain and sunshine both together.

(志子田光雄)