『生け垣に近づくな』¹

 昔、フランスのある村で、一人の妻女が重病にかかり仮死状態に陥った。人々は彼女が死んだものと思い、シーツにくるんで墓地へ運んで行ったが、途中生け垣のそばを通った時、潅木の棘が彼女を刺し、そのショックで息を吹き返してしまった。彼女はその後14年間生き長らえた後、再び死んだ。彼女の夫はその死を確認して、墓地に埋葬しても大丈夫と判断したが、その遺体を運んで行く途中、例の生け垣にさしかかった時、夫は「生け垣に近づくな」と何度も繰り返して叫んだという。

 この小話は、妻の死によってその束縛から逃れたいという恐妻家の夫の願望が、フランス一流のエスプリによって表現されているが、標記のことわざはこの物語に由来すると言われている。

 その意味は、「危険には近づくな」、「君子危うき近寄るべからず」、「触らぬ神にたたりなし」、あるいは少々拡大解釈し、「悪い連中とは付き合うな」と言う意味で用いられる。

1. N'approchez pas des haies.


(志子田光雄)