『猫だって王様を見ることができる』¹

 イギリスのことわざ。マザー・グースの童謡に「猫でも王様をみることができる。だから確かに私も醜いものを見ることができる」¹に由来するという。

 しかし,ドイツにも「猫だって皇帝を見るではないか」²という同趣のことわざがある。ドイツの皇帝マクシミリアン一世(1459−1519)がニュールンベルクで彫刻家レッシュの家をしばしば訪れた際、その家の猫がいつも皇帝を無遠慮に眺めていたのを見て、従者が面白がってこの言葉を述べたという言い伝えが出典。フランスのことわざでは「犬は司教をじろじろ見る」³とある。

 いずれも、下賎の者でも貴人の前でそれ相当の権利を有することを意味し、高貴な人や高慢な人に対して、自分と基本的には違いはないではないか、という抵抗の姿勢、あるいは気後れしないようにとの励ましを意味する。

 さらには「無心のも者は立派だ」とか「盲蛇におじず」「人間は他によって制約されることなく、見たいものは見、好きなように考えてよいのだ」という意味にも解釈が可能。

1. A cat may look at a king
  And surely I may look at an ugly thing.
            ーfrom Mother Goose's Nursery Rhymes.
2. Sieht doch die Katze den Kaiser an.
3. Un chien regarde bien un évêque.

(志子田光雄)