『だれにも利益を吹き与えぬ風は悪い風』¹

 これは、16世紀中葉に記録されているイギリスのことわざである。恐らく、新大陸をはじめ、ヨーロッパ人にとっては未知の地域が次々と発見され、世界の海を帆船が頻繁に航行し、通商貿易が拡大の一途をたどったいわゆる大航海時代を背景として成立したものであろう。

 ある帆船にとっての逆風は、反対方向に進む他の船にとっては順風となる。もしどの船にとっても順風でない風があれば、それは当然悪い風であるが、しかし帆船の航行に役立つ風である限り、そのような風は実際にはあり得ないことになる。

 従って、「どのような損失、災難も、だれかには利益になる」「甲の損失は乙の得」「泣くものあれば笑う者あり」ということになる。

1. It is an ill wind that blows no man good.
[類]
  It is an evil wind that blows nobody profit.
  Ill blows the wind that profits nobody.
  It is an ill air where we gain nothing.
  It is an ill air where nothing is to be gained.

 
(志子田光雄)