『悪口屋は舌に、聞き手は耳に悪魔を持つ』¹

 わが国に「誉めて千人悪口万人」ということわざがある。世間には人を誉める者よりも中傷非難する者の方が圧倒的に多いことを言う。直接自分に利害関係のある人に対する鬱を悪口の形で吐き出すのは認めたくはないが、人情のしからしむるところである。

 自分は全く被害者でないのに、人の悪口を言って周囲に迎合する手合いも少なくない。「人をそしるは鴨の味」という本邦のことわざが示す通り,悪口は甚だしく美味、快感を伴うからなのであろう。

 しかし、この場合、悪口を言う者だけを非難することはできない。悪口に喜んで耳を傾け、相槌を打って聞き出そうとする者がいなければ、どんなに悪口の好きな者でも悪口は言えない。従って「聞き手が悪口屋をつくる」²というフランスのことわざとなり、悪口を言う者も聞く者も同罪となる。そこから標記の古典的なことわざが真理となる。

1. Le médisant a le diable sur la langue, l'écoutant l'a dans l'oreille.
2. L'écoutant fait le médisant.

(志子田光雄)