『過つは人、許すは神』

 イギリス18世紀の詩人、アレクサンダー・ポープの『批評論』(1711)にある名言の一つ。これは、それ以前からあったことわざの引用であるとする説もあれば、ラテン語のことわざ『過つは人間の特性、過ちを押し通すのは獣の特性』と『愛するは人間の特性、しかし許すも人間の特性』を合わせてポープが作った言葉とする説もある。

 いずれにしてもポープ以来、この表現は人口に膾炙しているが、意味は多義的である。ことわざの前半は、「(人間は不完全なものであるから)過ちを犯すのは人間の性(さが)」、あるいは「過ちを犯すのは人間的」であると解釈できる。しかし、後半は「そのような過ちを(恵みの)神は許してくださる」と解釈できるが、それと同時に、許す主体を人間のレベルに引き下げ、「(過ちを許すことは往々にして困難であるが、そのような過ちをあえて)許すのは神々しい(並外れて素晴らしい)ことだ」と解釈することも可能である。しかし、原文の ‘divine’ は「人間を超越した」という意味合いが強いので、このことわざの後半は、許しの主体を人間にした場合、「(人を)許すということは大変困難なことである」ということにもなる。

 他人の過ちを、程度の差はあるにしても、心底から許すことの困難さよ!。

1.  To err is human, to forgive divine. (Essay on Criticism, II, 525) 
2.  Errare humanum est; in errore perseverare, belluinum.
3.  Humanum amare est, humanum autem ignoscere est.

(志子田光雄)