『賢者ほど上手に愚者を演ずることができる者はいない』

 中世後期からルネッサンスにかけて、ヨーロッパの宮廷には職業的な道化師(フール=愚者)が召抱えられていた。王侯貴族の身近に侍り、彼らの喜怒哀楽の感情の吐露を受け止めるとともに、彼らの愚行を遠慮なく批判することを許されていた。彼らは、また、一般民衆の下賎な言動を王侯貴族に面白おかしく伝達する役目も果たしていたが、かくしてフールは社会的上下階層の中間にあって、両者を風刺する働きをしていたのである。

したがって、このようなフールは鋭い慧眼と賢い言辞を弄する能力を兼備した者でなければならない。『誰でも知恵なくしてよく愚者を演ずることあたわず』である。このようなフールを「賢いフール(wise fool)」といい、知的障害の持ち主である「愚かなフール(foolish fool)」と区別される。

この世は賢く生きなければならないのは確かであるが、自ら賢いと思っている者の愚かさを炙り出すために、こちらが愚か者のふりをして見せなければならないこともある。このような場合、本当に知恵が無ければ、相手に愚者視されるのがオチである。

1.  No man can play the fool so well as the wise man.
2.  None plays the fool well without wit.

(志子田光雄)