『ホメロスでさえ時には居眠りする』1 『過ちは人の性(さが)』2とは古代ギリシャの昔からあることわざであり、それを用いてイギリス十八世紀の詩人ポープは『批評論(Essay on Criticism)』の525行で「過つは人、許すは神」3という名詩行を生み出した。 このように、神ならぬ身の人間は過ちを犯すのが当たり前であるが、問題はその多寡である。過ちの常習犯であるならば、たとえ過ちを犯してもいつものこととして諦めの態度を伴って見過ごされるが、滅多に過ちを犯さない信頼されている人がたまたま間違いを犯そうものなら、たちまち耳目を引いてしまう。 ホメロスは紀元前10世紀頃のギリシャの盲目の大詩人であるが、その優れた大叙事詩『イリアッド』や『オディッセイ』にさえ、時には居眠りしながら書いたと思われるような平凡な詩句が見出されることから、標記のことわざは「名人にも失敗はあるもの」という意味になる。紀元前1世紀のローマの詩人ホラティウスの『詩学(De Arte Poetica)』359行「優れたホメロスも時には居眠りする」4に由来する。 『弘法も筆の誤り』『猿も木から落ちる』の相当する。 (志子田光雄) |