『侮辱に対する最良の薬、それは無視』

 「人から侮辱を加えられた時は、侮辱が届かない高みにまで自分の魂を高めるように努力する」とデカルトは言った。これは努力目標であっても、非凡な人にして初めて可能であり、凡人にはなかなかの難事である。

 『侮辱は真鍮に書きつけられる』とあるように、人は侮辱を長く忘れない。『復讐しようと思う侮辱は漏らすな』ということわざがあるように、心底に激しい仕返しの気持が渦巻き、抑えきれなくなるものである。

 これが人情であるから標記のようなことわざが生まれもし、またあの有名な「韓信のまたくぐり」(漢の高祖に従い、大将軍として天下統一に貢献した韓信は、若い頃辱められて股をくぐらせられたが、よく忍耐した)も長く語り伝えられるのである。

 しかし『古い侮辱を辛抱強く耐え忍ぶ者は、新しい侮辱を招き求めるに等しい』、あるいは『一度侮辱を許せば新しい侮辱を引き寄せる』ということわざもあるように、侮辱を無視して黙っていると、かえって侮辱は正しいと認める結果となるので、侮辱は毅然たる態度で跳ね返さなければならない、とも教えられる。

1.  Le meilleur remede des injures, c’est de les mepriser.
2.  Injuries are written in brass.
3.  An injury which thou dost intend to revenge never divulge.
4.  He invites a new injury who bears the old patiently.
5.  Qui supporte une injure s’en attire une seconde.

(志子田光雄)