『ペンは剣よりも強し』1 ペンとケンと韻を踏み、わが国でも人口に膾炙しているこのことわざは、『武器は市民服に譲るべきである』2(武は文に譲るが良い)と言うラテン語の言葉に由来する。 ペンが象徴する文字や言葉による思想、文学、言論の力は、剣が象徴する武力よりも強力な力を発揮できる。しかし、イギリス19世紀の作家ジョージ・ブルワー=リットンが、詩劇『リシュリュウ』の中でこのことわざを用い、その前に「まことに偉大なる人物の支配の下においては」と条件をつけているのは、一半の真理を示していると言えよう。 スペインの作家セルバンテスは『ドン・キホーテ』の中で、「剣がペンを鈍らせたことも、ペンが剣を鈍らせたこともない」と皮肉っているが、しかし、少なくとも武力による勝利もペンの力で記録されなければすぐ忘れ去られてしまう。イギリス17世紀の詩人ヘンリー・ヴォーンは「剣の力をペンで補わなかったら、シーザーは忘れ去られているであろう」と言っている。その意味では、まさに「ペンは剣よりも強し」である。 (志子田光雄) |