『美は見る人の目の中にあり』1

 「美」が人の見る「目」と深いかかわりがあることは、ドイツ語のschön(美しい)がschauen(観る)と語源的に関係があることからも示唆される。

 一般に、あらゆる美しいものは、それらが共通の「美そのもの」にあずかっているゆえに美しいのだとする、いわば客観的絶対的な美の存在を認める立場と、そうではなくて、美は見る人の主観的な体験によって異なってくるのだとする、いうなれば相対的な美の規定をする立場とが考えられる。

 標記のことわざは、後者の立場を表すものと言えるであろう。すなわち、美は独立した存在ではなく、見る人の意識と密接にかかわりを持っているとする立場である。他の人の目を大いによろこばせるものであっても、ある人の目を喜ばせないならば、ある人にとってそれは美とは言えないからである。 

 『人は好き好き』、『十人十色』、『好き嫌いは議論にならぬ』など、この立場を表すことわざはきわめて多い。 

1. Beauty is in the eye of the beholder.

(志子田光雄)