『書くことは正確な人を作る』¹

 イギリスの哲学者フランシス・ベーコン(1561−1626年)の『随筆集』の第五十章「学問について」の一節、「読書は充実した人を作り、会話は即妙の人を作り、書くことは正確な人を作る」が出典。ベーコンは続けて「筆記をすることがすくない人は、強い記憶力を有していなければならない」と言っているので、この場合「書くこと」は、記録あるいはメモをとることを意味すると思われる。記憶に頼らず、書き記しておくことにより、正確な情報の把握と、それに基づく行動をなすことができる、という意味である。

 しかし、同時に、このことわざは、われわれがよく経験する事実をも述べている。すなわち、思考の過程でまとまっていると思っていた事柄も、文字で書き表してみるとその内容や叙述の不備が明らかになってくる。従って、書くことは、思考あるいは思考内容の論理性を正確にし、正しい伝達を可能ならしめる、ということにもなる。

 ラテン語のことわざに「書くことによって書くことを学ぶ」²とあるように、とにかく書くことが肝要。

1. Writing makes an exact man.
2. Scribendo disces scribere.
[類]
  Scribere scribendo, dicendo dicere discunt.

 
「書くことによって書くことを、語ることによって語ることを人々は学ぶ」

(志子田光雄)