『悪魔のことを話してみよ、必ず悪魔が現れる』

 これは本邦の『噂をすれば影がさす』に相当するであろう。

 その場にいない誰かの噂をしていると、奇妙にその人がひょいと現れて驚かされることが多い。しかし、このことわざは、そのような場合が多いという頻度や確率の大小だけを問題にしているのではない。大抵は、その人に聞かれてはまずい噂をしているところに突然その人が現れてギョッとさせられるという心理的なものが背後にある。その点では「噂をすれば」よりも「悪魔のことを」の方が、噂話の恐ろしさを十分に物語っている。

 イメージ・シンボルを集めた事典によれば、悪魔は、心理学的に「人間のまだ現実に現れていない暗い危険な面、すなわち人間の影の部分を表す」とあるので、噂話をしている時は、ある人の噂話をしているつもりでも、そこに大きく立ち現れてくるのは、その話し手の心の中にある暗い危険な面なのかもしれない。

1.  Talk of the devil, and he is sure to appear.
Var. Speak of the devil and he will appear.
   Talk of the devil, and he’s presently at your elbow.

(志子田光雄)