『料理人が多すぎるとスープがまずくなる』¹ 味は鹹(かん)・酸・甘・苦の四つの基本味が複雑に組み合わさったものであるが、味覚の感受性は人によって異なるようである。試薬フェニルチオ尿素を「苦い」と感じない味盲点は人種によって異なるし、一般に女性は男性よりも味に敏感であるといわれ、またその感受性は年齢とともに低下する傾向があり、健康状態によっても大いに左右されるからである。 このように、味覚に関しては個人によって大きな相違が認められるとき、多数の料理人、しかもそれぞれ一家言を持つ料理人たちが、一つのスープの味に注文をつければ、塩加減一つでも中々決まらず、遂にはスープを台無しにしてしまうというのである。 何かの決定をするとき、大勢の者がそれに参加したがると、結果は混乱を招くことがある。操作がまずい場合の民主主義の弱点はこの点にある。そのため、しばしば大勢の自信ある人々に決定をゆだねるよりは、一人の専断による方がうまくゆくという結果になりかねない。 (志子田光雄) |