『蛙を金の椅子に座らせても、また水溜りに跳んでゆく』¹ イメージあるいは象徴の世界では、蛙はあらゆる冷血動物のうちで最も人間に近いとされている。そのためメルヘン(おとぎばなし)の世界では、蛙がよく王冠をかぶっており、また人間の王子が蛙に変身することもある。 このドイツ語のことわざも、このようなメルヘンの世界を背景としているようであるが、これは王子が蛙に変身したのではなく、蛙が王子に変身したのである。王子はしばらくは黄金の椅子に座っていても、やがては水溜りに戻ってしまう。その意味は、(1)住み慣れたところが一番良い、(2)幸運によって高位に就いてもすぐ地が出てしまう、すなわち「運は天性を変えず」ということである。 同趣のものに、『犬は自分の反吐(へど)に戻り、豚は洗われてもまた泥の中に転がる』²がある。ユダヤのことわざであるが、直接の出典は新約聖書ペトロの手紙二第2章22節である。この原義は、「義の道を心得て後、聖なる戒めに背く者がいる」であるが、同時に標記のことわざと同様に「住み慣れたところが一番良い」と言う意味にも用いられる。 (志子田光雄) |