『自然はあらゆる突然の変化を嫌う』1
ギリシャの哲学者アリストテレスは『政治学』の中で「自然は何一つ無駄なことをしない」と言い、自然界の営みには必ず何らかの理由、必然性があって、無意味な行為や存在はなにもないと言っている。自然の営み、変化は一挙に生起するものではなく、徐々に行われる。これが「自然は(その働きにおいて)飛躍せず」2というラテン語のことわざの意味である。十七世紀ドイツの哲学者ライプニッツや十八世紀スウェーデンの博物学者リンネもよくこの言葉を用いた。 人類の歴史は、脅威として存在した自然の征服の歴史であり、そこに現代文明が確立してきたのだと人間は誇る。しかし、問題は、人類が、必然性を持って徐々に変化してきた自然の動きを断ち切り、あるいは急速に改変することによって、自然そのものから自然災害をはじめとして様々な形で逆襲を受け、それがさらに拡大する危険性をはらんでいることであり、同時に、自然征服に用いた技術文明が肥大化し、人類のコントロールを脱して暴走し、人間を徐々に支配するという状況にまで近づきつつあることである。 今こそこの言葉をかみしめるべきであろう。 |