『彼は8月生まれだ』¹ これも立派なことわざである。イギリスでは、16世紀後半にまで遡って記録の例を見出せる。一般に、「口の肥えた人、すなわち食通」の意味で用いられた。しかし、17世紀の記録によれば、手当たり次第に味わってみる舌の持ち主、美食家(必ずしも食通と一致しない)、あるいは食欲旺盛な人に対する迂言法としても用いられたようである。 ところで、8月は、英語、ドイツ語でいずれもAugustと綴るが、これはローマ帝国初代の皇帝オーガスタス・シーザー(在位、紀元前27―紀元後14)の名に由来する。オーガスタス(アウグストゥス、「尊厳者」の意味の尊称)は、ジュリアス・シーザーに愛され、遺言により養子となり、クレオパトラの美にうつつを抜かしたアントニーを討ち破って三頭政治に終止符を打ち、ローマ皇帝となった人物である。ジュリアス・シーザーが7月の月名に名を残したのを真似て、自分の名を8月の月名としたのである。また本来は30日であった8月を、7月に倣って31日に変更したとも言われている。 |