『肉のあとにからしが出る』

 肉は腐りやすいので、その腐臭を消し、味をごまかし、中毒を防ぐためにも、からしを含めて香辛料は肉料理中心の西欧においては古くから不可欠の必需品であった。香辛料は黄金に次いで諸国によって捜し求められ、その結果、新航路や新しい土地の発見、産地支配をめぐる争いなどが起こり、それによって事実上世界史が書き換えられたと言えるであろう。

 これらの香辛料の中で、からし(マスタード)は産地が比較的広範囲であったため、古くから最もポピュラーなものであった。からし種を粉にし、水を加えると揮発性のカラシ油となって激しい辛味を生ずる。そのため西欧では特に肉料理の生臭みを消し、香辛味をつけて食欲を増すために用いられてきた。

 この肉料理に欠かせないマスタードは、食事終了後に出されても何の役にも立たない。そこから、「物事は時期を失っては役に立たず、無駄になってしまう」、というのがこのことわざの意味である。

 『後の祭り』『十日の菊、六日の菖蒲』に相当する。

1.   After meat comes mustard.
  After dinner mustard.
  Mustard after meat (or dinner).
  
  Das ist Senf nach der Tafel. (それは食後のからしだ。)

(志子田光雄)