『輝くもの必ずしも金ならず』1 源は、ラテン語のことわざ『汝がその輝けるを見るすべてのものを黄金なりと思うなかれ』2にあり、各国語に翻訳されている最も人口に膾炙したことわざの一つである。 イギリス16世紀の詩人エドマンド・スペンサーは『妖精の女王』のなかで、「金のように見えるものがすべて金とは限らない」(第3巻)と述べている。また、シェイクスピアは『ヴェニスの商人』で、ポーシャ姫が求婚者たちに金・銀・鉛の箱のいずれかを選ばせ、彼女の肖像入りの箱を選んだものと結婚することを約束する。第一の求婚者のモロッコの大公は金の箱を選ぶが、中には朽ち果てた髑髏が入っており、そのうつろな目には次のような文をしたためた手紙がある。「輝くもの必ずしも金ならず、とは汝も幾度と聞きしはず。わが外面のみを求めて命を売りし者多かりき。金色に輝く墓も蛆虫を内臓せり」(2幕7場65−9行)。 外観が美しいものは必ずしも真に美しいものとは限らず、内面は汚濁に満ち溢れている場合があり、本当に意味のあるものは内面的精神の美である、というのが普通の解釈であるが、同時に、外面がきらびやかな生き方であっても、内実は苦労の連続である場合もある、などと現実の生活のレベルまで下げて解釈することも可能である。 このことわざからの論理的帰結ではないが、視点を変えれば「金であっても必ずしも金に見えるとは限らない」とも言えそうだ。 |