『升の下に灯火を隠すな』¹

 出典は新約聖書マタイによる福音書第5章15節「ともし火をともして升の下に置く者はいない。燭台の上に置く。そうすれば、家の中のものすべてを照らすのである。」そのように、あなたの光、すなわち良い行いを人々の前に輝かせなさい、と続く。

 ユダヤ人は、終夜灯明を消さず、室内を暗くする時には穀物を量る土製の升で灯火を覆うのが習慣であったことによる。

 このことわざは一般に、謙遜から自分の美点や才能を隠してしまうようなことはするな、と言う意味に解釈されている。

 古来わが国の徳目の一つとして教えられてきた謙遜、すなわち、へりくだり、控えめを尊ぶ躾(しつけ)の下では、美点であっても隠して示さないことが美徳とされてきたが、このことわざにおける「隠すな」という否定の命令形は、積極的な姿勢をとることへの強い勧めである。もちろん自己顕示の勧めでないことは明らかである。

1.   Hide not your light under a bushel.

(志子田光雄)